受精から墓場まで

はなみずきクリニック

院長 髙山 典子

 私は産婦人科医であるが、産婦人科とは本来女性の幅広い分野を取り扱う診療科である。
「揺り籠から墓場まで」に留まらず、母体内の胎児(妊婦検診)、それ以前の妊娠に至る過程(生殖医療)も守備範囲であるから、受精から死亡するまでの全期間が診療に含まれると言える。
そんな私が20年間の勤務医生活を経て開業医にジョブチェンジし、その後医師会を通じて得た経験値のうち 1 学校医 2 介護認定審査会 3 医療連携 に関して記そうと思う。

1 学校医
牛久市内の学校の校医を拝命し、年1回健康診断を行っている。自分のクリニックの外来で女子生徒の診察を行う場合は余裕を持って話ができるのに対し、学校検診の限られた時間内で診察するのは難しいと感じている。無治療の疾患が見つかることも当然あり、理想を言えば生徒自身のセルフケア・健康マネジメント教育が強化される必要があるのだろうがその実現のためには相当きめ細かい作業が必要と思われる。

参考資料 平成 30 年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「子どもの適切な生活習慣形成等に関する調査研究」研究報告書
https://www.shouman.jp/pdf/contents/kodomo_houkoku.pdf

2 介護認定審査会
医師・歯科医師・薬剤師・看護師・ケアマネージャー・理学療法士等が牛久市民の介護認定申請書を審査する会議であるが、もともと産婦人科領域の疾患で要介護状態に至るケースが少ないことから、以前は介護の実際について自分の知識が乏しかった。
しかし審査会でさまざまな基礎疾患・バックグラウンドを有する症例に接するにつけ医療以外の部分(介護・生活支援など)の重要さを今更ながら認識すると共に、「病気を診て人を見ず」の主治医意見書が少なくないことを実感している。

3 医療連携
ひとたび病を得た時、可能ならば現状最高水準の医療を受けたいと考える人は多いだろう。その考えが大病院志向を生み、医療崩壊や医療費増大の一因となったのは明らかで、結果国による かかりつけ医制度が推奨されるようになったわけだが、一方医学の圧倒的な進歩に伴い一施設または一診療科だけで診療すべてを完結することは困難である。
そのため病診・病々・診々連携が必要となるわけだが、私は医師として3分の2の期間を病院勤務医として、残り3分の1を開業医として過ごしたが、両者の間には深い溝があると感じる時がある。

先日私は患者としてAクリニックからB病院に転院したのだが、あまりの非連携ぶりに信じられない思いをした。その経験もあり開業医の重要な仕事のひとつはピンポイントな紹介状を書くことであると考えるに至った。

以上自分の経験について述べたが、今後医療ではAIで代替される部分が多くなり、例えば症状・検査データ・画像データを入力すれば瞬時に病名が特定・診断され治療法が提示される時代がそう遠くない将来実現するだろう。

しかし来るべき超少子高齢化社会においては、単なる病名診断・介護度認定のみではなく住民ひとりひとりと行政・医療機関・各施設間の調整能力がますます重要になるであろうことを確信しており、これはAIで置き換えられないと考えている。
今後医師会として何ができるのか、微力ながら地域住民の健康増進・幸福の追及に少しでも貢献したい。